1.
忍耐そのものは別に敗北ではないのだ。むしろ、忍耐を敗北だと感じたときが真の敗北の始まりなのだろう。
安部公房
2.
希望とは、絶望の一形式である
安部公房
3.
道にこだわりすぎるものは、かえって道を見失う。
安部公房
4.
欠けて困るようなものばかりだったら、現実はうっかり手も触れられない、危なっかしいガラス細工になってしまう。…要するに、日常とは、そんなものなのだ
安部公房
5.
弱者への愛には、いつだって殺意がこめられている。
安部公房
6.
弱者を哀れみながらもそれを殺したいという願望、つまり弱者を排除したい、強者だけが残るということなんだね。
安部公房
7.
現実の社会関係の中では、必ず多数派が強者なんだ。平均化され、体制の中に組み込まれやすい者がむしろ強者であって、はみ出し者は弱者とみなされる
安部公房
8.
共同体に復帰したい、共同体の中に逆らわずに引き返して、決められた場所の穴の形に自分を合わせたい、という衝動と、強者願望とは、意外に似通っているんだね
安部公房
9.
たとえば発明・発見などを考えてみても、弱者が自分の弱い欠落を埋めるための衝動じゃないか。
衣服を例にとってみようか。非常に体が強健で、寒くても平気な奴には衣服は要らない。すぐにブルブルッとくる奴が寒さしのぎに衣服を発明する。そういう弱者の組織力というものが、社会を展開し構築していくわけだ。
安部公房
10.
強者の論理に対しての弱者の復権、人間の歴史っていうのは根本的にはそうなんだね。逆に言えば弱者のある部分が強者に転化していく歴史でもあったわけだ。
よくよく見るとそこに踏まえている一つの殺意みたいなものが我々の未来に対する希望みたいなものに水をさしてる部分が非常に多いわけだ
安部公房
11.
人類の歴史は弱者の生存権の拡張だった。社会の能力が増大すればするほど、より多くの弱者を社会の中に取り込んできた。弱者をいかに多く取り込むかが文明の尺度だったとも言える。
安部公房
12.
ふと未来が、今までのように単なる青写真ではなく、現在から独立した意志をもつ、狂暴な生きもののように思われた。
安部公房
13.
未来は個人の願望から類推のできないほど、断絶したものであり、しかもその断絶のむこうに、現実のわれわれを否定するものとしてあらわれ、しかもそれに対する責任を負う、断絶した未来に責任を負う形以外には未来に関り合いをもてないということなのです。
安部公房
14.
未来は、日常的連続感へ、有罪の宣告をする。
安部公房
15.
失明宣告を受けた人間が、最後に見る眼で、街を描写すること
安部公房
16.
実につまらないこと、平凡無味なくだらないことが、すべて興味や詩情を誘惑する。あの一室に閉ぢこもつて、長い病床生活をしてゐた子規が、かうした平淡無味の歌を作つたことが、初めて私に了解された。
安部公房
17.
子規の歌は、長い間私にとつての謎であつた。何のために、何の意味で、あんな無味平淡なタダゴトの詩を作るのか。作者にとつて、それが何の詩情に価するかといふことが、いくら考へても疑問であつた。
安部公房
18.
選ぶ道がなければ、迷うこともない。私は嫌になるほど自由だった。
安部公房
19.
この鞄のせいでしょうね。
ただ歩いている分には、楽に搬(はこ)べるのですが、ちょっとでも階段のある道にさしかかると、もう駄目なんです。おかげで、運ぶことの出来る道が、おのずから制約されてしまうわけですね。鞄の重さが、ぼくの行き先を決めてしまうのです
安部公房
20.
「ユープケッチャ」の説明をしておきますと、これは甲虫の一種で肢が退化し、自由に移動することが出来ない。かわりに自分の排便を餌にして、ぐるぐる小さな円を描いて生きているわけです。一日に一周するので「時計虫」とも呼ばれている。
これは、実際にはあり得ないんだけど、ぼくらの中には、こういうものに対する憧れというか、そういう生き方をできればしたいと思うんだよね。同時に今度は外に拡張してゆく自己拡張の願望が、自動的に対立物として出てくるんだ。
安部公房
21.
読まなかったら、こういう世界を結局もたずに済ませてしまうわけだからね。決まった尺度でしか物が見えないなんて、考えてみたらこわいことじゃないか。
安部公房