1.
立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹(ぼたん)、歩く姿は百合(ゆり)の花。
坪内逍遥
2.
知識を与うるよりも感銘を与えよ。感銘せしむるよりも実践せしめよ。
坪内逍遥
3.
子ゆえに迷い、子ゆえに悟る。入りやすくして、至り難いのが文学の研究である。
坪内逍遥
4.
凡そ形(フォーム)あれば茲(ここ)に意(アイデア)あり。
坪内逍遥
5.
禁欲主義というやつは、矛盾を秘めた教えで、いわば、生きていながら、生きるなと命ずるようなものである。
坪内逍遥
6.
人情とはいかなるものをいふや。曰く、人情とは人間の情慾にて、所謂百八煩悩是れなり。
坪内逍遥
7.
只管(ひたすら)人の心目を娯(たのし)ましめてその妙神(しん)に入らんことをその「目的」とはなすべき筈なり。
坪内逍遥
8.
直接の利益は人心を娯(たのし)ましむるにあり。小説の目的とする所は人の文心を娯ましむるにあり。
坪内逍遥
9.
人間という動物には、外に現る外部の行為と内に蔵れたる思想と、二条の現象あるべき筈たり。
坪内逍遥
10.
入りやすくして、至り難いのが文学の研究である。
坪内逍遥
11.
小説の主脳は人情なり、世態風俗これに次ぐ。
坪内逍遥
12.
文は思想の機械どうぐなり、粧飾かざりなり。
坪内逍遥
13.
詩歌・戯曲(じょうるり)を活動し、且つ音楽を活用し、其妙技をしも奏すればなり。
坪内逍遥
14.
人情を灼然(しゃくぜん)として見えしむるを我が小説家の務めとはするなり。
坪内逍遥
15.
よしや人情を写せばとて、その皮相(ひそう)のみを写したるものは、いまだ之(こ)れを真の小説とはいふべからず。その骨髄(こつずい)を穿(うが)つに及び、はじめて小説の小説たるを見るなり
坪内逍遥
16.
形容を記するはなるべく詳細なるを要す
坪内逍遥
17.
されども、これをなすに当りて、善人にも尚ほ煩悩あり、悪人にも尚ほ良心ありて、その行ひをなすにさきだち、幾らか躊躇ふ由あるをば洩して写しいださずもあらば、是れまた皮相の状態にて、真を穿たぬものといふべき
坪内逍遥
18.
小説は仮作物語の一種にして、所謂奇異譚の変体なり
坪内逍遥
19.
小説の完全無欠のものに於ては、画に画きがたきものをも描写し、詩に尽しがたきものをも現はし、且つ演劇にて演じがたき隠微をも写しつべし
坪内逍遥
20.
小説の作者たる者は専ら其意を心理に注ぎて、我が仮作たる人物なりとも、一度編中にいでたる以上は、之を活世界の人と見做して、其感情を写しいだすに、敢ておのれの意匠をもて善悪邪正の情感を作設くることをばなさず、只傍観してありのままに模写する心得にてあるべき
坪内逍遥
21.
夫れ美術といふ者は、もとより実用の技にあらねば、只管人の心目を娯ましめて其妙神に入らんことを其とはなすべき筈なり
坪内逍遥