1.
何かをやりたいと願い、それが実現するときというのは、不思議なくらい他人が気にならない。
意識のなかから他人という概念がそっくりそのまま抜け落ちて、あとはもう、自分しかいない。自分が何をやりたいかしかない。
角田光代
2.
交わした言葉が、笑い合ったささやかなことが、言い合いしたつまらないことが、相手のことを考えた時間が、ともに目にした光景が、すべてゆっくりと消化され、わたしの栄養になりエネルギーになった。
それは失われたのではなく、今もわたしの内にある。あり続ける。
角田光代
3.
立場が違うということは、時に女同士を決裂させる。女の人を区別するのは、女の人だ。
角田光代
4.
物語の輪郭がはっきりしている場合は早く伝えた方がいい、立ち止まらせてはいけない
角田光代
5.
大事なことは自分にとってのいい仕事とは何かをはっきりさせることです。ここがぼんやりしていると、堂々巡りの迷路に入り込みかねない。
角田光代
6.
仕事を選ぶヒントをひとつ挙げるとすれば、何時間やっていてもまったく苦にならないもの。
角田光代
7.
ひとりでいるのがこわくなるようなたくさんの友達よりも、ひとりでいてもこわくないと思わせてくれる何かと出会うことのほうが、うんと大事
角田光代
8.
ほかのすごく大事なことを選べるようになると、選べなかったことなんかどうでもよくなっちゃうの
角田光代
9.
どこかにいけば、おもしろいことが待ってると思っているんだろ。ここじゃない、どこか遠くにいけば、すごいことが待っているように思うんだろ。
でもね、どこにいったって、すごいことなんて待ってないんだ。そうしてね、もう二度と同じところに帰ってこられない。出ていく前のところには戻れないんだ。
角田光代
10.
若さと新しさがイコールではないように、年齢を重ねても人は大人にならない。
角田光代
11.
恐怖心を持つのは大切なことなんですよ。恐怖心があればあるだけ、慎重になりますから。
角田光代
12.
自分が悪くないときは謝らなくてもいいんだよ。
角田光代
13.
(おかあさんになって)よかったか、よくないかなんて思ったことないわ。だって私、なんだか生まれたときからあんたのおかあさんだったような気がするんだもの。おかあさんじゃない自分なんて今さら想像できない。
角田光代
14.
人というものは不思議なもので、いくらすねていようとも、ぐれていようとも、すさんでいようとも、怒りや憎しみでがんじがらめになっていたとしても、ふつうに日を送ることができる。
角田光代
15.
思い返してみれば、言葉の通じる人とのお別れのときだって、そんなふうに整然と話せたことなんかなく、その人がしてほしいと望むことを正確にしてあげられた自信などまるでない。言葉が通じたって苦い悔いばかり。そしてかなしみが減じることはない。
角田光代
16.
面倒とはつまり、感情の揺れなのだろう。そのぶれが大きければ面倒も大きくなる。
角田光代
17.
旅はもともと自由なもののはずなのに、気がつけば、不自由な旅をしていることに思い当たったりする。
角田光代
18.
ひとり旅ならば、自分の感覚しかない。何をうつくしいと思い、何をきたないと思い、何をおいしいと思うか、自分自身を信じるしかない。そうすると、自分ですら知らなかった、まったく新しい自分に、出会えることも多いのである。旅の記憶も純度が高まる。それは、ひとり旅の無駄さ、面倒さ、心細さ、すべての欠点にもまさる重要なことなのだ。
角田光代
19.
困難や疲労は、住み慣れた場所に帰れば消える。けれど、見知らぬ土地で蓄えた、そうしたちいさな光の粒は、時間の経過とともにますます輝きを強くする。
それがその人を成長させるとか、ゆたかにさせるとは私は思っていない。ただ、静かに内に降り積もるだけ。
角田光代
20.
失うことは、マイナスでもプラスでもなく、何かを持っていたという証である。
角田光代
21.
人間は、名づけられていないものを異様におそれる生きものだと私は思っている。
角田光代