1.
妄想は自分を弱くみじめにした。愚にもつかないことで本当に弱くみじめになってゆく。
梶井基次郎
2.
希望をもてないものが、どうして追憶を慈しむことが出来よう。
梶井基次郎
3.
視(み)ること、それはもうなにかなのだ、自分の魂の一部分或(ある)いは全部がそれに乗り移ることなのだ
梶井基次郎
4.
程よい怠けは生活に風味を添える。
梶井基次郎
5.
太陽を憎むことばかり考えていた。結局は私を生かさないであろう太陽。しかもうっとりとした生の幻影で私を騙そうとする太陽。生の幻影は絶望と重なっている。
梶井基次郎
6.
得体のしれない不吉な塊が私の心を終始押さえつけていた
梶井基次郎
7.
人間が昇りうるまでの精神的の高嶺に達し得られない最も悲劇的なものは短命だと自分は思う。100年、1000年とは生きられないが、寿命だけは生き延びたい。短命を考えるとみじめになってしまう。
梶井基次郎
8.
何故だかそのころ私はみすぼらしくて美しいものに強く引き付けられたものを覚えている。
風景にしても壊れかかった街とか、その街にしてもよそよそしい表通りよりもどこか親しみのある汚い洗濯物が干してあったり、がらくたが転がしてあったり、むさくるしい部屋が覗けたりする裏通りが好きであった。
梶井基次郎
9.
私にも何か私を生かし、そしていつか私を殺してしまう気まぐれな条件があるような気がした
梶井基次郎
10.
自分の不如意や病気の苦しみに力つよく耐えてゆく事の出来る人間もあれば、そのいずれにも耐えることのできない人間もずいぶん多いに違いない。
梶井基次郎
11.
妄想で自らを卑屈にすることなく、戦うべき相手とこそ戦いたい、そしてその後の調和にこそ安じたい
梶井基次郎
12.
酒を飲んだあとに宿酔(ふつかよい)があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやってくる。それが来たのだ
梶井基次郎
13.
のん気な患者がのんきな患者でいられなくなるところまで書いて、あの題材を大きく完成したいのです。
梶井基次郎
14.
承認してしまえばなにもかもおしまいだ。そんな怖ろしさがあったのだった。
梶井基次郎
15.
それにしても心という奴は何という不可思議な奴だろう。
梶井基次郎
16.
察しはつくだろうが私にはまるで金がなかった。とは云えそんなものを見て少しでも心の動きかけた時の私自身を慰める為には贅沢ということが必要であった。
梶井基次郎
17.
どうして引返そうとはしなかったのか。魅せられたように滑って来た自分が恐ろしかった。──破滅というものの一つの姿を見たような気がした。成る程こんなにして滑って来るのだと思った。
梶井基次郎
18.
私の心はなんだかぴりりとしました。知るということと行うということとに何ら距(へだ)りをつけないと云った生活態度の強さが私を圧迫したのです。
梶井基次郎
19.
課せられているのは永遠の退屈だ。生の幻影は絶望と重なっている
梶井基次郎
20.
自分の生活が壊れてしまえば本当の冷静は来ると思う。水底の岩に落つく木の葉かな……
梶井基次郎
21.
何時まで経っても私の「疲労」は私を解放しなかった。私が都会を想い浮かべるごとに私の「疲労」は絶望に満ちた街々を描き出す。それは何時になっても変改されない。
梶井基次郎